※こちらの小説は貴海×ファレンのえろだけの小説です

 ネタバレなどはないです。

 

 

錆びて崩れる理性の鎖

 

 こんな状況であってさえ俺の腕の中に抱かれている、かの女性の微笑みは美しい。

 貴海はこみあげてくる吐き気を抑えながら、は、はと犬のように浅ましく呼吸していた。すでに日は暮れて空は藍と黒の相の子と化している。屋敷にともる橙の薄明りが数少ない光源だ。

 それでもまだ完全な夜と呼ぶには早い。睦みあうにはいささか心もとない時間だ。

 だけれど貴海は、焦げ茶の髪と紫煙の瞳の青年は一生をささげた相手に愛を求めた。そうすると、ファレンは仕方ないと呆れながらも腕を伸ばしてきてくれた。

 ここ、彼岸には誰もいない。屋敷に住んでいた少年少女や感謝すべき保護者達は今はいない。

 貴海とファレンだけだ。

 そのために様々な相手と笑顔を交わしあった談話室でこんな背徳をできるのかもしれなかった。他の場所でも良かったが、貴海が疼いたのは窓に手を置いて、外を眺めるファレンの桜色の髪が流れるのをみたためだ。そのまま腕を引いて、自分はソファに腰かけてファレンを膝の上に座らせた。

 いま、ファレンが俺だけのものであるという証明が欲しい。

 そんな身勝手な欲に突き動かされたのだろうか。答えはわからないし当てはめる気もない。

 下賤な獣欲は常に清いファレンを鳴き犯したくてしかたがないのだから。

「最低だな」

 自分のことをなじれば、ファレンは首を横に振る。マーメイドスカートは床に落ちて、滑らかな曲線を描く脚が貴海の手によって開かされていた。ジャケットも下着も落ちて、いま着ているのはシャツ一枚だけだ。豊かな胸のふくらみが視界に入ると触れたくなる。

「お前が好きだよ。私が、好きなお前をけなされるとすごくさみしいんだ」

 君はまだそんなことを言ってくれる。

 貴海はえずいた。胃の中のものはこぼさずに咳だけを何度も繰り返す。

 実父と実母の呪いによって貴海は性行が苦手だ。

 なのにどうして、ファレンとだけは触れ合えるのか、触れ合いたいと思うのか。そんなのはこっちが聞きたい。もっとファレンがしてくれるように洗いたてのシーツでくるむようにただ優しく、包容できればそれでよかった。

 なのに体は訴えてくる。お前が欲しいのはこの女が乱れ狂うさまなのだろうと笑ってくる。俺はそれを違うと振り払えないで、泣きながらうなだれるしかできない。

 ファレン。

 いまだに俺のみにくい欲望を包んでくれて、困ったように笑っている。

「た、かうみ」

 幼いころを思い出した。

 ファレンの外見としていとけないところは見たことがないが、しゃべれなかったころは知っている。

 愛らしく、誇らしく自分の名前を舌足らずに「たあうみ!」と呼んでくれた奇跡はいまでも忘れられない。

 貴海に身を預けていたファレンだが、不意に少しだけ離れた。寂しく思うと「ん」という声をあげながら貴海の肩に手を置いて、脚を立てていく。つられて、貴海の雄性の象徴が刺激されていった。貴海は息をつめる。

「ん、はぁ……んく。ん、ふ、はふぅ……」

 感じているのだ。

 それはまとわりつく、とか絡みつく、といった巧みなものではない。ただただ動いて貴海の熱を果たそうとつたなく動いていた。

 閨事においてもファレンは積極的ではない。貴海が嗚咽をこらえながら愛撫をして苦しみつつも、快楽に悦んでるのをなだめてくれるだけだ。

 だから、きょうはよほど参っているように映るのだろう。縦長に細い緑の瞳孔と、金の瞳の中には情けない男がいるはずだ。 

 それを見たくてファレンの顎に手をやると、したがってファレンは見せてくれた。瞳の中にはお前しかいないと。貴海だけだと。

 教えてくれる。

 かしゃん、と理性の鎖が精液で錆びて崩れていく。

 貴海はファレンの腰をつかむと、ぐっと雄を突き立てた。

「あ、あぁぁあ……!」

 感じるであろう、孕むための入り口と肉壁の中の一部をこする。ファレンは肩に手を置くだけではなく、貴海の首に腕を回した。顔が近づいて愛しさのあまり口づける。

 ファレンも応えてくれた。舌を伸ばして、ちゅ、きゅちゅりと唾液を絡めあう。ファレンからもらう液体はいつだって甘くて頭を沸騰させそうだ。

 もっと欲しい。もっと触れたい。奥の奥まで暴いても足りないのだからいつか、俺はファレンを胃の腑に収めて食べたことに泣くのではないかとばかなことを考える。

 ファレンは優しいけれどそんなことを許しはしない。一生をかけて傍にいると約束してくれた。

 それを破ることなど、ない。

「あ、んんん……! は、ふぁ、たか。たかうみぃ……! おく、おくが」

「わかってる」

 素っ気なく答えるが腰の動きは激しい。じゅば、ずばん! と叩きつけては跳ねそうになるファレンの体を押さえつけていく。押さえこめられ逃げ場のないファレンは苦しそうに、気持ちよいと声をあげる。

「く、きょう、の。たかうみ……らんぼう、で。すごい、な……!」

「君ががんばってくれたからな。暴れたくもなる」

「それはこま、あ……! ずる、とされたら……!」

 ファレンのつま先がぴんとはる。どうやら、極みに達したらしい。ファレンの貴海の雄を抱擁する肉壁も、じゅりゅぐりゅとようやく欲を見せてくれるようになった。

 いまだ臓腑を焼く気持ち悪さを覚えながらも、体は素直にファレンを求める。

 達したい。精液をぶちまけて、ファレンの中を濡らしてしまいたい。それが子種になるのかどうかはいまはどうでもよいのだ。

 抱き尽したい。それだけだ。

 貴海は姿勢を変える。三人掛けのソファに、ファレンを横たわらせて、腰を上げさせる。そのまま上からがつがつとファレンをむさぼった。

「ひふぅ、は、あぁぁ……! すご、い……! かたいのが、いっぱい。おく。おくついて……!」

「感じるか」

 こくん、と頷かれて。

「すごく……」

 などと瞳を潤ませて、自分の体を抱きながら、ファレンは熱い吐息をこぼした。

 そうして貴海も射精した。

 この一瞬だけは、内にこもる気持ち悪さも同時に流されるように忘れられる。

 そのままずるずると貴海はファレンに倒れこんだ。ファレンは倒れてきた貴海の頭を抱きしめて、よしよしとしてくれる。

「がんばった、な」

「ああ。がんばった」

 だから褒めろ、と「自分からこんなことを仕掛けて何を」というようなたわごとだが、ファレンは怒らない。何度も頭を撫でてくれた。

「貴海」

「ん?」

 なんだ、と顔を上げたら変わらず清い微笑みを浮かべているファレンがいた。

「俺は、お前からされることならなんだっていいんだよ。殴られたら悲しいし、罵倒されたら怒るだろうけれど、それらも受け止める」

「やめてくれ。そんなに甘えたくはない」

 俺は、ファレンにはやさしくてきもちいいことだけをしたいんだ。それ以外の悲しいことや辛いことなんて味あわせたくない。

「……わかってるよ、うそだ」

 ならばよいと今度は貴海がファレンを抱きよせた。汗ばんでしっとりとした肌、そこから感じられる水に沈めた花の香気。心地よい心臓の音。

 俺はファレンが本当に、いとおしい。

 本当はこのまま眠りにつきたかったが「風邪をひくから」とファレンにたしなめられて、がんばって寝台までは移動した。

 それも褒めてほしいなんて甘えたら、ファレンはくすりと笑って、また頭をなでてくれた。