夜明け前、世界を滅ぼした 七話

 

 

 

 屋敷に戻ると三人の男性が石畳の上にひとまとめにされていた。傍にはフォルスとノクシスがいる。

「ああ、おかえり」

「ただいまだ、父様」

「フォルス。何が起きたんだ?」

 尋ねるルトに答える前に、フォルスはファレンに視線を向けた。

「単純に言えば賊です」

 どうしてそこでファレンを見るのか不思議だったが、話の続きを待つ。

「屋敷に忍び入り、盗みたいものがあったと」

「ファレンを盗みたかったのか」

 先ほどの視線から察して言うと賊の一人は顔をそむけた。当たりらしい。次はどうしてファレンが必要なのかを考えてまた一つの仮定を告げる。

「ファレンに刻まれている奇跡式が目的か」

「そうだろうね」

 ノクシスが先に同意する。貴海の隣にいたファレンを招き寄せた。ファレンは三人の賊を貴海には決して向けない眼差しで見下ろしている。

「悪いな。大人たち。俺を開く鍵は貴海様しか持ちあわせていないようだ」

「承知の上で盗みに入りましたが、なるほど私たちは最悪な形でさえあなたとの関わりを絶ちたかったらしい」

 賊の中でも年かさの男がそう言った。

 貴海はとりあえず盗みに入った賊たちを街の外れにある収監施設へ勾留させるように命じる。それから屋敷に戻ると普段通りを装いながらも、ひりついた雰囲気が漂っていた。賊はすぐに見つかって捕まえられたとはいえ。

 思考が止まる。貴海の頭の中で疑問が芽生えた。

 目的のものがいない可能性を考えない賊がいるのか。賊が、簡単に見つかるために行動するのか。加えて先ほどファレンに告げた言葉に含まれている「関わりを断ちたかった」が示す意味とは、何だ。

 賊の本当の目的は、ファレンを盗むどころか捕縛されたくて、わざわざ屋敷へ入りこんだのではないか。

「ファレン」

「ん? どうした」

「君は賊が今日この屋敷に入ることを知っていたのか」

 腕の中のぬいぐるみを抱きしめてファレンは可憐に微笑んだ。

「ああ。わかっていた。正確には父様の予言でな」

「だから俺を外に連れ出したがっていたのか」

 ファレンの答え次第によっては少年の純情を傷つけられそうだ、などといった感情を抑えて、尋ね返す。

 俺の身を案じてくれたのならばそれはそれでありがたい。だが、俺と外に出たいと願ってくれたほうが身の安全を守られるより嬉しいと思ってしまう。理由は。簡単だ。

 ファレンに惹かれているからだ。

 貴海がファレンの答えを待つのにかかった時間は数秒ほどだった。

「あなたを傷つけるものから俺はあなたを遠ざけたい。ついでに出かけられた嬉しいなと夢を見ただけだ」

 淡々とした言葉だが、それらは初めて見えたファレンの必死さだった。唇を引き結んでぬいぐるみを抱きかかえたまま貴海を見据える。金の瞳は意思の強さにより、常よりまばゆかった。

 どうしてそんなに俺を好いてくれるのか。疑問が貴海を取り囲む。答えられる相手はいない。おそらくファレンは言わないと分かっていた。

「切羽詰まっているところだけれど、貴海様。ファレン。屋敷に戻りましょう」

 場に遠慮無く切り込んでくれるノクシスの冷静さが救いだった。

 貴海はファレンに背を向けて屋敷に戻っていく。フォルスがファレンの背中に手をあてて屋敷へと誘導してくれるのを一度、振り返って見た。

 ファレンの表情はわからない。

 

 

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